映画『めぐみへの誓い』(野伏翔監督)が静かに反響を広げている。北朝鮮による日本人拉致事件を主題とする本作は、令和3年2月に全国で封切られたが、上映館は23箇所と少ない。
本作は製作費としてクラウドファンディングが呼びかけられ、7千万円以上が集まった。寄付者の総数は5千名を超える。長年、救出を求める署名活動を行ってきた「救う会」関係者の多くも、寄付の呼びかけに協力した。
しかし一般のエンタメ映画と異なり、宣伝資金も多くはない。映画の動員はSNSなど、クチコミが中心となった。Facebookには有志による宣伝グループも立ち上げられた。
高校生「日本人として関心を持たなければならない」
署名活動に参加してきたある男性は、高校二年生になる息子に映画の話をした。その男子高校生は、北朝鮮拉致事件のことを知らなかった。学校でも教わっていないという。男性は、自分も息子にちゃんと話していなかったことに気づいた。
父親の勧めもあり、男子高校生は卒業式のため在校生が休日となった一日を利用し、電車を乗り継いで福岡市内の映画館「KBCシネマ」に足を運んだ。平日の昼間だが、シアタールームには30名ほどが座っていた。
帰宅してすぐ、男子高校生は父親に一言「(映画を見ている間)ずっと涙が止まらなかった」と言った。
翌日、父親は息子に改めて映画の感想を聞いた。
「(拉致問題は)日本人として関心を持たなければならないこと。自分自身が進んで行く道において、この問題に関わっていきたい」
父親はこの言葉を聞いて、息子の胸に「火がついた」と感じた。
学校現場で教わらない拉致問題
救う会福岡は毎月、福岡市内の繁華街である天神の街頭で署名活動を行っている。その際、通りがかった中学生や高校生が横田めぐみさんらの写真が載った看板を指差し、「これは何の問題ですか?」と尋ねることが多い。
拉致問題について文科省や政府拉致対策本部は、学校現場で「アニメめぐみ」を上映するなど、生徒・児童に教えるよう学校長へ通達を出している。しかし現実として、学校現場で拉致問題が教えられることは極めて稀だ。
平成14年に拉致被害者5名が帰国してまもなく20年。警察庁がホームページで公表している「北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者」は現時点で875人に登る。
映画『めぐみへの誓い』では横田めぐみさんら「政府認定拉致被害者」の他、「特定失踪者」と呼ばれる被害者にもスポットがあてられている。実際に何人の日本人が北朝鮮に拉致されたのか、北朝鮮の独裁体制が続く限り明らかになる可能性は低い。
映画の終盤で横田めぐみさんの父・滋さん(役・原田大二郎)が娘に「諦めるな」と呼びかけるシーンがある。滋さんは娘が行方不明になって40年以上、諦めずに再会を願っていたが、令和2年6月に帰らぬ人となった。
本作が日本人に問いかける問題は極めて深く、厳しい。奪われた時間を取り戻すことはできないが、せめて拉致被害者が生きている間に、故郷へ連れ帰らねばならない。
▽KBCシネマ(福岡市)での上映は3月5日(金)まで
kbc-cinema.com
(この記事は「選報日本」からの転載です)